ペルージャ時代のイタリア語学習の教科書にほんの一部が掲載されていたことでブッツァーティを知った。簡単な著者紹介文から興味を持っていた作家のひとりだったが、長いこと邦訳を読もうという気になれないでいた。彼の少し皮肉的ともユーモアともいえるフレーズは、イタリア語でも私にはやや飲み込みが難しい分野でもあったせいである。
近頃やっとイタリア人に慣れてきたのかもしれない。(今更言うかな?)「そのココロは?」という部分が少しづつ理解できるようになってきて、日本語になっていたところで、彼らの思考や言葉が想像ができるようになってきたらしい。
「タタール人の砂漠」は砂漠の要塞で、敵を待ちながら緊張と不安の一生を過ごす主人公ジョヴァンニ・ドローゴの話である。彼は少し生真面目で羽目もはずさないが、わずかに野心もある地味な軍人のひとりである。軍人という職業を選択した理由も、これといった目的があったわけでもなく始まり、大きな理由もなく留まる。
砂漠という環境で孤独で単調な生活の繰り返し、日々の積み重ねでしかない人生を送っている。それでも人生の中で幾つかの出会いや別れ、アクシデントや悔いなどがあり、喜びや楽しみに多くは恵まれない平凡なものである。
いつ攻めてくるかしれない敵軍を待ち、毎日緊張と不安を抱えて大半を過ごし、やがて既に力も気も衰えた老人になる。戦うべき時に戦う能力も体力もなく呆然とする。
ジョヴァンニ・ドローゴの人生そのもののように、物語も単調に語られていく。彼の人生とは同じでも似通っているわけでもないだろうが、限られた環境のなかでの先の見えない不安やあせり、誰にでも全く起こりえないとは言いきれず、思わず共感してしまう不思議な物語である。
2020年のロックダウン中、コロナ禍の単調で不自由な毎日とどこか共通するなと思いながら読了した一冊。書き溜め下書きが見つかりました(苦笑)
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